2011年4月21日木曜日

国境を越えた16人の原子力専門家が声明「事故を完全に回避できた可能性がある」

2011年4月19日、原発の安全問題について助言を行う国際原子力安全諮問グループ(INSAG)に関わりのある16人の原子力専門家が、共同で声明を発表した。この16人は国際原子力機関(IAEA)事務局長に助言する立場にある専門家たちだ。

専門家たちは福島第一原子力発電所の事故に対し、「比較的コストのかからない改善をするだけで、これらの事故は完全に回避できた可能性がある」と伝えているのである。

社団法人日本原子力産業協会の公式ホームページにも同内容のコメントが掲載されている。同協会は、メンバーが協会の活動に関わってきた経緯から、翻訳して紹介しているのである。

声明は「二度と繰り返さないために:原子力安全のために必要な目標」と題され、過去に起きたスリーマイル原発事故、チェルノブイリ原発事故を振り返り、その教訓から現在の原子力安全の枠組みを述べている。そして、今回の東京電力福島第一原発事故に触れ、国際原子力安全体制を強化する方策を提案している。

この声明で注目するべきは、今回の事故についてのメンバーの考察だ。メンバーは建物について、「原子力発電所が他の多くの人工建造物に比べて、破壊的な自然現象にもある程度耐え得ることが示せた」(原文より引用)としながらも、その一方、「福島第一原子力発電所の立地と設計では、確率の低い事象があり得ない形で同時発生すること(史上稀に見る地震に史上稀に見る津波が加わったことによる全電源喪失)に対する考慮が十分でなかったと思われる」(原文より引用)と指摘。また、事故の緊急時要員については、次のように述べている。

「事前に訓練を受け態勢が整った状況の範囲を超えた対応を余儀なくされた。しかも事故後の検証から、事前のより詳細な分析によって必要性を特定できる、比較的コストのかからない改善を実施していれば、これらの事故は完全に回避できた可能性があることが判明している」(原文より引用)

そして要員訓練、過酷事故の防止策、安全要件の見直しを提案しているのだ。最後に、メンバーが培った経験と専門知識をいつでも提供する用意があることを表明し、この声明を結んでいる。

はたして、メンバーが指摘するように比較的コストのかからない改善だけで事故は回避できたのだろうか? 専門家たちが指摘することが真実であるとすれば、東京電力はそれを怠ったという可能性も考えられる。

いずれにしても事故についての検証は国際的な場で、さらに多くの専門家の意見を交えて繰り広げられることになるだろう。ちなみに、16人の専門家とは以下の通りである。

・アドルフ・ビルクホッファー(ドイツ) ミュンヘン工科大学名誉教授、元INSAG委員長
・アグスティン・アロンソ(スペイン) 元INSAG委員、元スペイン原子力規制委員会理事
・クン・モ・チュン(大韓民国) 元INSAG委員、元韓国科学技術大臣
・ハロルド・デントン(アメリカ) 元米国原子力規制委員会原子炉規制局長、
・ラース・ヘグベリ(スウェーデン) 元INSAG委員、元スウェーデン原子力検査局局長
・アニル・カコドカル(インド) 元INSAG委員、元インド原子力委員会委員長
・ゲオルギー・コプチンスキー(ウクライナ) 元ソ連閣僚評議会原子力・産業局長、元ウクライナ原子力規制委員会副議長
・ユッカ・ラークソネン(フィンランド) INSAG副委員長、フィンランド放射線・原子力安全庁長官
・サロモン・レヴィ(アメリカ) 元INSAG委員、元GE社設計・製造部長
・ロジャー・マトソン(アメリカ) 元米国原子力規制委員会原子炉システム安全部長
・ビクトル・ムロゴフ(ロシア) 国立原子力研究大学教授、ロシア原子力科学・教育協会理事
・ニコライ・ポノマレフ-ステプノイ(ロシア) ロシア科学アカデミー会員、元クルチャトフ研究所副所長
・ビクトル・シドレンコ(ロシア) 元INSAG委員、ロシア科学アカデミー会員、元クルチャトフ研究所副所長
・ニコライ・スタインベルグ(ウクライナ) 元IAEA原子力諮問グループ委員、元チェルノブイリ発電所主任技師
・ピエール・タンギ(フランス) 元INSAG委員、元フランス電力公社原子力安全監察総監
・ユルギス・ヴィレマス(リトアニア) リトアニア科学アカデミー会員、元リトアニアエネルギー研究所所長協会理事

参照元:国境を越えた16人の原子力専門家たちによる声明(PDF)