2011年11月12日土曜日

<TPP>情報足りない…「見切り発車」広がる不安

毎日新聞 11月11日(金)22時5分配信

 説明不足のまま「見切り発車」した政府の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉への参加表明。野田佳彦首相は「よく考えさせてほしい」と記者会見の日程を1日延ばしたが、国民の間には賛否両論に加え、「情報が足りず考えることもできない」との不満も広がっている。【長野宏美、神足俊輔、山本太一、小島正美】

 ◇被災地の生産者

 「日本全体を考えると、農家の事情だけで反対するのはどうか」。フルーツ王国福島で観光果樹園を営む福島市の渡辺秀紀さん(28)はTPP参加に理解を示す。原発事故の影響で果物狩りは例年の3割どまりだが「台湾や香港からの観光客もいてブランド力がある。外国産に負けないよう工夫すればプラスにできる」と前向きだ。

 同県伊達市で桃や洋梨を生産する佐藤孝洋さん(38)は「農家の後継者不足は深刻で、食料自給率は今後下がるだろうし、消費者は安い外国産が流通したほうがいいのでは。でも、原発事故から立ち直ろうと懸命になっている今の参加には反対です」という。

 養殖ワカメ発祥の地とされる岩手県大船渡市末崎町。農林水産省はワカメの主な輸入元である中韓両国が参加しない現行の枠組みならば国内の漁に響くことはないと説明するが、不安もある。ワカメの養殖を30年間続ける細川周一さん(60)は「津波で漁船や漁具を流され、やっと来春ワカメが取れる。復興への光が隠れるようなことだけはやめてほしい」と話す。

 ◇製造業の現場

 TPP推進を唱えるトヨタ自動車の企業城下町・愛知県豊田市。JAあいち豊田ビルの入り口には、他のJAのようなTPP反対のポスターやのぼりはない。市内の農家の8割は兼業で、多くはトヨタの関係工場で働く。山中敏広総務部長は「反対の立場ではあるが、ほとんどの組合員はトヨタから経済的な恩恵を受けている」と苦しい胸の内を明かす。

 経団連は工業製品の関税撤廃による輸出の増加を期待するが、下請けの中小企業には別の意見もある。

 町工場が集まる東京都大田区。金属加工業「明希産業」の茨田直人社長(45)は「ただでさえ円高で大変なのに、海外から安価な製品が入ってくれば、国内の消費者は質の高い日本製より安い方を選ぶ」と警戒する。

 製造現場の雇用は増えるのか。「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長(47)は「政府が雇用への影響を説明していないので議論もできない。まともに生活できない雇用が増えても意味がなく、現時点での参加は拙速」と批判する。

 ◇首都の消費者

 東京都新宿区のスーパー。買い物をしていた古川正子さん(53)は「ちょっぴり賛成」という。育ち盛りの長男は来春、大学受験。「教育費も心配なので、安い輸入食品で食費を抑えられればありがたい。でも食品表示を信頼できるのか、分からない」。別の主婦(50)は「農業が衰退すれば、食料自給率がさらに下がる。10年先を考えると、目先の安い食品だけに喜んでいていいものか」と悩む。

 日本生活協同組合連合会は1日、「交渉プロセスを明確にし、経済活動への影響を具体的に示す試算を示して」と野田首相に要請した。各地の生協は放射性物質に関する学習会を盛んに開いているが、TPPには関心が薄いという。同連合会は「賛否の前に、まずは情報を」と訴える。
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