2011年4月20日水曜日

1日で破綻!東電“超楽観”工程表、高濃度放射能またまた想定外?

2011.04.19

 東京電力が17日に発表した福島第1原発の事態収束に向けた「工程表」が早くも破綻した。放射線量の着実な減少(ステップ1)に3カ月、放出を管理し大幅抑制するのにさらに3-6カ月(ステップ2)と初めて具体的な作業工程を明示したものだが、発表からわずか1日でスケジュールの変更を余儀なくされていることが分かったのだ。東電幹部と政府首脳はまた「想定外」を連発するつもりなのだろうか。

 工程表では、事態収束まで最長9カ月とされている。それなりの長期間ではあるが、それでも「来年までの我慢か」と自らを納得させた人も多いだろう。だが、その思いは1日で崩れた。

 東電は18日、2号機の使用済み燃料プールからあふれた水を受け止めるタンク内の水から、高濃度の放射性物質を検出したと発表。プールに保管されている燃料が損傷した可能性があるため、近くで作業するには新たに遮蔽の作業が必要となる。4号機でも、新たに原子炉建屋の地下で深さ5メートルのたまり水が発見されており、発表翌日にして計画通りの対策実施は事実上困難となった。

 こうした事態を予測したのか、勝俣恒久・東電会長は工程表を発表した17日、日程の確度を問われた際に「自信はない」と語っていた。菅直人首相も「これで一歩前進かな…」と確答を避けており、東電と政府の“甘すぎる見積もり”は発表時点で予想されていた。

 米FEMA(連邦緊急事態管理庁)の外郭団体IAEM(国際危機管理者協会)の国際コーディネーターで、日本戦略研究フォーラム復興支援・国際連携室室長の唐川伸幸氏はこう苦言を呈す。

 「1、3号機の格納容器や2号機の圧力抑制室が正常な状態なら、クールダウン(=冷却安定化)に9カ月、燃料棒除去に6カ月が妥当ですが、今回は原発のユニット全体が破壊されておりクールダウンにもっと時間がかるのは確実。燃料棒除去にしても、部分メルトダウンによる放射能漏れがひどく、ロボットによる作業は不可避。地震も続いており、最低2-3年はかかると推測され、見通しが甘すぎると言わざるをえない」

 さらなる暗雲も立ちこめている。米国製の遠隔操作ロボット「パックボット」が約50分かけて1、3号機建屋内部の線量調査を行った結果、それぞれ毎時10-49ミリシーベルト、同28-57ミリシーベルトを記録。2号機はさらに高濃度であることが推測されており、工程表に基づく作業員の作業時間がほとんど確保できないことが確認されたのだ。作業員の被曝量には限界があるため、それなりの技術を持つ交代要員が必要だが、今後の人員確保の見通しは工程表には反映されていない。

 大量の注水作業の継続により、格納容器にたまった汚染水の漏出リスクも続く。汚染水を集めて保管する集中廃棄物処理施設の受け入れ準備が整ったとして、東電は早い段階での移送を始めることにしているが、大量の水が注入されて巨大な重量となった格納容器の強度は未知数。移送と前後して、破損箇所が拡大し、汚染水が大量漏出する事態となったら…。

 原子炉設計が専門の川島協・前九州東海大学長は、「(工程表が)荒唐無稽とは言わないが、期限を決めて作業を完結するのは決して簡単ではない」と懐疑的だ。

 「4つの原子炉の損傷状況が判然としない中、相手は目に見えない放射性物質。構造を熟知し、現象を一番よく分かっている東電の工程表が、十分な分析の下に策定されたタイムリミットなのか、あるいは単なる“腹づもり”なのか。うまくいくかどうかは、やってみないと誰にも分からないというのが実態だ」

 川島氏は工程表の中でも、ステップ2の「3~6カ月」の幅に着目。この3カ月の幅が、東電が考えている事態収束に向けての“不確かさ”という。

 ■安全委は早くも白旗

 仮に、破損状況が外部から推測するより軽かったとしても、タービン建屋の地下だけで6万トンに及ぶ汚染水の処理という難題が待ち受ける。原子炉の構造がまったく違う仏原子力大手、アレバ社の“助言”に政府が振り回されて、さらに現場が混乱する恐れもある。

 「東電は、ゴールをもっと前倒ししたかったのかもしれませんが、この幅を長いとみるか短いとみるかは判断が分かれるところ。被害の全容がいまだにはっきりせず、条件も刻々と変わる中での発表だけに、東電も相当の覚悟を持ってこれだけの幅で時間を区切ったと信じたい」とわずかな期待を示す川島氏。一方で、「(9カ月で)やってくれとしか言いようがない」とも話す。

 しかし、内閣府原子力安全委員会の班目春樹委員長は18日、「(工程表の実現は)相当のバリアがある。スケジュールありきで安全がおろそかになることは避けてほしい」と語るなど、発表翌日に早くも“白旗”をあげた。

 現地では巨大な余震が頻発。夏には風向きが変わり、秋には台風が襲来する可能性も高い。再び大量の放射性物質拡散を起こせば、日本は間違いなく世界から猛批判を受けるだろう。