2011年10月28日金曜日

【ビジネスアイコラム】オリンパス騒動、もはや文化の違いでは済まない 中露に劣る日本企業

2011.10.25 05:00

 「AXES AMERICA」の商業登記地レキシントン通り420番地はニューヨークの交通の要衝、グランド・セントラル駅東側にある。部屋番号226。訪れたら無人事務所で、数年前から閉鎖されていた。

 AXES社とは2006年に登記された米コンサルタント会社で、精密機器大手オリンパスが08年に英国の医療テクノロジー開発会社ジャイラスを買収した際のアドバイザーだ。いまやAXES社は事実上の幽霊会社。なのに、オリンパスは買収額の約36%(6億8200万ドル)に相当するアドバイザー料をケイマン諸島に登記されたAXESの関係会社に支払った。

 ジャイラスの規模だと、アドバイザー料は通常1%に過ぎない。オリンパスはM&A(企業の合併・買収)史上で最大規模の手数料を支払ったのだが、買収価格が異常に割高な算定法だったうえに、アドバイザー料が買収先の価値に連動する優先株という利益相反をオリンパス側は放置した。にもかかわらず、支払いを受けた関係会社はペーパー・カンパニーで、どこに巨額の資金が流れたのか見当がつかない…。

 英国人経営者、マイケル・ウッドフォード前社長が電撃解任されたオリンパスの不透明なM&A処理が世界的な関心事になっている。米ウォールストリート・ジャーナルなどの海外主要メディアは、「疑惑」を連日報道している。

 社長解任動議が出た14日の臨時取締役会の当初、M&Aを議題に招集がかかっていた。しかし、取締役会が始まったとたんに議長役が「社長信任」に議題を変更した。オリンパスで30年間働いたたたき上げの営業マンであるウッドフォード前社長は、オリンパスが組織的に何かを隠そうとしていると思った。

 ウッドフォード前社長は15年までに販管費・売上高比率を20ポイント引き下げる「コストカッティング20」を打ち出し、取締役会を牛耳る菊川剛会長の出身母体である映像事業にも大リストラを迫っていた。もともとすき間風が吹いていたところに、オリンパスの不透明なM&A処理を追及していた月刊誌FACTAの翻訳記事をウッドフォード前社長が読んでしまった。ウッドフォード前社長が出頭した英重大不正捜査局(SFO)に加えて、米連邦捜査局(FBI)も調査に乗り出した。AXESは米国籍で、資金はオリンパスの欧州会社からバークレイズとドイツ銀行を経由して送金されたため、捜査管轄権を持っているのは海外当局だ。

 米調査会社GMIによると日本企業は企業統治(コーポレート・ガバナンス)ランキングで38カ国中33位と、中国やロシアをも下回る。セーリングが好きなウッドフォード前社長にゴルフをすすめた菊川会長は解任理由を「文化の違い」に落とし込もうとしたが、事件の行方には日本企業全体の名誉がかかっている。

(産経新聞ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇)
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