2012年5月31日木曜日

キンドル上陸、変わる出版業界「黒船と同じ状況」

産経新聞 5月30日(水)12時6分配信

 東京・目黒の結婚式場、目黒雅叙園に隣接する高層オフィスビル。先月入居した電子商取引世界最大手、米アマゾンの日本法人本社から男女3人組が現れる。電子書籍端末「キンドル」を引っ提げ日本市場への参入を目指す電子書籍事業で、大手出版社との契約交渉を担う部隊という。

 出版4千社のうち現在、アマゾンとの契約合意を認めた出版社はない。中堅の幹部は「合意していてもNDA(秘密保持契約)のため公表できない」と話す。日本法人広報部は事業開始について「年内にお知らせできる」とだけしている。

 電子書籍に長年携わるPHP研究所事業開発本部の中村由紀人本部長(55)は「黒船が来て明治維新が生まれたのと同じ状況だ。紙の本を電子化する二次利用権、著作隣接権、電子図書館で貸し出しする際の公共貸与権…。全てのルールを変えなければならない」と話し、こう続けた。

 「出版業界は大手を頂点にした村社会で、出版契約書さえ作っていない版元も多い。だからどう対応していいか分からない。あの人たちとどうつき合えばいいか。外資のアングロサクソンが来るわけですから…」

 明治以来、出版業界は著者、出版社、取次会社、書店という制作、流通の枠組みであるプラットフォームを築き上げた。そこへアマゾンという世界的プラットフォーマーが登場した。

 業界も電子書籍を広げようと先月、大手15社が出資し株式会社の出版デジタル機構を発足させた。現在の20万点から5年後に100万点へ増やす計画だが、電子化だけではいわゆる「自炊」と変わらない。3年後に2千億円になると見込まれる電子書籍市場というプラットフォームをどう築いていくのか。増やした書籍をどうやって売るのか。

 機構の会長で、専修大学の植村八潮教授(56)=出版メディア論=は「点数を増やすことは市場が立ち上がるための環境整備にすぎない。そのとき、新しい世代が参入し新たなメディアを作り始める。斬新な電子書店が出てくる。それを期待している」と話す。

 角川グループは平成22年12月、独自の電子書籍配信プラットフォームを立ち上げた。「ライトノベル」と呼ばれる若者向け小説が主体で、サイトと、スマートフォン向けアプリを提供している。他社へも参加を呼びかけ、1社が加わった。来月にも4、5社増える。

 運営する角川コンテンツゲートの安本洋一常務(48)は「プラットフォームを持つことで顧客情報がつかめる。利用者が何時何分にどんな本を買っているのか、年齢や性別の属性とともに購入履歴や頻度が分かる。作品作りや市場調査に生かしている」と語る。

 角川もアマゾンとの交渉を進めた。プラットフォーム同士で競合しないか尋ねると、安本さんは「心配していない。一般の電子書籍はアマゾンで買われても、ライトノベルやアニメ作品を求める人はうちへ来てくれると思う。そこではたぶん負けない」と答えた。

 アマゾンがわが国で紙の本を売り始めて12年。本の全流通の1割はアマゾンといわれる。日本法人が先月公表した昨年の売り上げ上位は講談社、角川、集英社、小学館、学研と大手が占めた。アマゾンは紙の本でもすでに有力なプラットフォーマーとなっている。

 学研ホールディングスの織田信雄デジタル事業本部長(51)は言う。

 「今年中にプレーヤーがそろえば、例えば2年後、電車で主婦が電子書籍端末を持つ姿が当たり前の風景になっているかもしれない。勝負は始まっている」

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