2013年3月22日金曜日

「撮り鉄」どう対処? トラブル続出…“いいお客さん”ではない

産経新聞 3月22日(金)12時23分配信

 列車撮影に熱心な鉄道ファンを指す「撮り鉄」。だが、撮り鉄による線路敷地内への無断侵入や列車の運行妨害などの問題が続発しており、マナーをめぐっては議論がある。先月、長野県の鉄道会社「しなの鉄道」沿線の撮影スポットに植樹されていた桜の木が何者かに切られた事件をきっかけに、インターネットを中心に批判が巻き起こっている。ともに鉄道趣味に造詣が深い旅行作家の野田隆さんと、鉄道ライターの杉山淳一さんに、意見を聞いた。

 ■杉山淳一氏「自浄作用は期待できない」

 ●「いい客」ではない

 --撮り鉄を中心に鉄道ファンへの風当たりが強まっている

 「まず、鉄道ファンは鉄道会社にとって“いいお客さん”ではないことを自覚し、おとなしくしてほしい。鉄道ファンが落とすお金は、鉄道会社にとっては定期券を買って毎日乗っている人に比べれば大した額ではない。そこをわきまえていないから、一般乗客への遠慮や鉄道員に対する尊敬が働かない。鉄道会社も内心苦々しく思っていることだろう。そもそも乗車券は乗るための券であり、写真を撮るためのものではない。一般乗客に対して迷惑をかければ、排除の動きが出るのは当たり前だ」

 --鉄道ファンは鉄道会社にあまり貢献していないのか

 「鉄道ファンのお金は、実は鉄道会社にはあまり落ちていない。乗ることを目的とする“乗り鉄”であっても、ほとんどはいかに安い切符でたくさん乗るかを極めようとする。さらに撮り鉄は荷物が多いので、鉄道を使わず車で撮影スポットに向かうケースが少なくない。カメラ会社や自動車メーカー、鉄道雑誌を出す出版社などにはお金が回っても、肝心の鉄道会社にあまり利益はない。他のオタク市場とは大きく異なる部分だ」

 --しなの鉄道の事件は、撮り鉄側の猛反発でさらに炎上した

 「撮り鉄の犯行だと決めつけるなと反発する撮り鉄の人もいたが、どう考えてもあれは撮り鉄の仕業だと思う。撮影スポットとして有名な場所であるし、あの桜だけを狙って切る理由が他にないからだ。もちろん、マナーが悪い人がいるのは撮り鉄に限った話ではなく、人数が増えて裾野が広がれば変な人も増える。ただ鉄道は公共交通だから、アニメなど他のオタク趣味とは違って趣味の世界だけでは完結せず、どうしても一般社会と関わらざるを得ない。そうなると、趣味のトラブルが社会のトラブルになってしまう」

 ●違法行為には厳しく

 --ファン同士の自浄作用は

 「昔からネット上などでファン同士のマナー論議が繰り返されてきたが、そもそもマナーをわきまえない人はそこに参加しないから意味がない。自浄作用が期待できない以上、違法行為をする撮り鉄はどんどん捕まえるべきだし、受忍限度を超える行為には遠慮なく法的措置に踏み切ればいい」

 --前向きな解決策は

 「鉄道会社の側も、もっと鉄道ファンにお金を払わせる工夫がいると思う。たとえば公式の鉄道ファンクラブを作って、有料で臨時列車の情報などを提供したり、撮影に適したホームの片隅をロープで区切って提供したりすればいい。ファンを囲い込むことで一般客とのトラブルも減る。そうした仕組み作りが必要だ」 (磨井慎吾)

 ■野田隆氏「間接的には観光の振興に」

 ○本物ならトラブル回避

 --一部の撮り鉄のマナーが問題になり、鉄道会社はもっと撮影を規制すべきだという声がある

 「確かに、“鉄道ファン暴走”といった報道に接すると残念に思う。しかし一方で、彼らは本当の鉄道ファンなのだろうかと疑問もわく。なぜなら本当のマニアは、危険性も含めて鉄道を熟知している。私も蒸気機関車の撮り鉄なのでわかるが、われわれは動いている列車に対し、危険なほど近づくことはない。近づき過ぎると、よい写真が撮れないからだ」

 --ファンなら秩序を守ると?

 「基本的に、きちっと編成、つまり列車の頭から尻尾までを入れて写したい。そして、他の撮影者が写り込まないようにしたい。だから自然に、鉄道ファンは一歩下がったところにきちんと並んで一眼レフカメラを構える。お互い気持ちよく撮るための不文律がある。場所取りは必ず先着順。自分より早く到着した人がいたら、邪魔しないよう横や後ろに並ぶのは常識だ。好きなことだからこそ、余計なトラブルは避けたい」

 --東北・上越新幹線「200系」車両が最後の定期運行を終えた15日、JR東京駅ホームは多くの撮影者であふれた

 「駅に大勢のファンが集まると乗降客の迷惑になるので、鉄道会社がある程度撮影を規制するのはやむを得ないと思う。駅には子供連れやファン以外の一般撮影者も多く、予想外の行動をとる人もいる。特に怖いのが、携帯電話で撮影する人だ。列車に接近しないと大きく撮れないので、ホームの端ぎりぎりに飛び出したり、線路の方へ手を突き出したり…。個人的には駅よりも、大自然の中で走る列車の姿を撮る方が好きだ」

 ○鉄道写真の役割大きい

 --桜の枝を邪魔だからと切ってしまう撮影行為をどう思うか

 「大半のファン、特に年配のマニアはむしろ、花と列車の“競演”を楽しむだろう。ただ、少数ながら風流を解しない人、身勝手なこだわりを持つ人がいるのも事実。鉄道情報誌や鉄道ファンのブログなどでは再三、撮影マナーについての注意喚起を行っている」

 --鉄道写真が文化や産業の発展に寄与した点も無視できない

 「はい。自分たちの楽しみだけではなく、鉄道写真には実際かなりの需要がある。ビジュアルの記録が果たしてきた役割は大きい」

 --魅力的な写真を通して、ファンの裾野が広がった面もある

 「例えば、観光ガイドにも臨場感たっぷりの鉄道写真は欠かせない。赤字に苦しむローカル線は多いが、『この列車に乗って、あのまちに行ってみたい』と思わせる力が、鉄道写真にはある。間接的には観光振興にもつながっている」 (黒沢綾子)

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