2013年3月22日金曜日

JR西の制服を騙し取った28歳・鉄子の“歪んだ欲望”

2013/03/16 12:11

【衝撃事件の核心】

 好きが高じたとはいえ、その行為が許される理由など存在しない。JR西日本の社員を装って同社の制服をだまし取ったとして、詐欺容疑で和歌山市の無職の女(28)が2月下旬、和歌山県警に逮捕された。女は、クリーニング店に長い間つるしてあった制服を言葉巧みに入手したのだが、その動機については、店につるされた制服を見ているうちに「鉄道が好きで、制服がほしくなった」と供述。JR西関係者の間からも「これまで聞いたことがない事件だ」という声さえあがる。店員をだましてまで制服を手に入れたかった理由は何なのか。真相は、いまだに見えない。(藤崎真生)

 ■「JRが特に好き」

 事件が起こったのは2月5日の午後。和歌山市内のクリーニング店に1人の女がフラリと姿を見せた。店の外からでも、ガラス越しにクリーニングを終えた衣類が見える構造。女の目当てはただ一つ。昨年11月ごろからカウンターの後ろにつるされていたJR西日本の男性社員用の制服だった。

 「JRの者ですが…」

 クリーニング店の店員に向かって、女は平然とした様子で偽名を使って切り出し、こう続けた。

 「制服は、クリーニングに出せないことになっていて、ばれたら部下がクビになる。上司に知られないよう本人に返します」

4 JR西の制服を騙し取った28歳・鉄子の“歪んだ欲望” 2013/03/16 12:11 【衝撃事件の核心】  好きが高じたとはいえ、その行為が許される理由など存在しない。JR西日本の社員を装って同社の制服をだまし取ったとして、詐欺容疑で和歌山市の無職の女(28)が2月下旬、和歌山県警に逮捕された。女は、クリーニング店に長い間つるしてあった制服を言葉巧みに入手したのだが、その動機については、店につるされた制服を見ているうちに「鉄道が好きで、制服がほしくなった」と供述。JR西関係者の間からも「これまで聞いたことがない事件だ」という声さえあがる。店員をだましてまで制服を手に入れたかった理由は何なのか。真相は、いまだに見えない。(藤崎真生)  ■「JRが特に好き」  事件が起こったのは2月5日の午後。和歌山市内のクリーニング店に1人の女がフラリと姿を見せた。店の外からでも、ガラス越しにクリーニングを終えた衣類が見える構造。女の目当てはただ一つ。昨年11月ごろからカウンターの後ろにつるされていたJR西日本の男性社員用の制服だった。  「JRの者ですが…」  クリーニング店の店員に向かって、女は平然とした様子で偽名を使って切り出し、こう続けた。  「制服は、クリーニングに出せないことになっていて、ばれたら部下がクビになる。上司に知られないよう本人に返します」

 すべて嘘だったが、女は部下思いの上司を巧みに演じた。応対した店員は女の話を信じ、制服を手渡した。制服の価格は上着とズボンを合わせて約1万2千円相当。制服を外部の店にクリーニングに出してはならない規定など、JR西にはなかった。

 店員が信じ込んだ理由は、女が連絡先として、JR西日本支社の電話番号をスラスラと答えたためという。それでも不審に思い、後になって店員はJR西に電話で問い合わせた。

 「そんな名前の社員はいませんよ」

 JR西の担当者にこう告げられ、詐欺の被害にあったことに初めて気づいたという。その後、クリーニング店側が被害届を和歌山県警に提出。捜査の結果、女が浮上し、2月25日に逮捕された。

 女の自宅を捜索したところ、部屋の中からいくつかの鉄道模型が見つかった。「鉄道が好き。JRが特に好き」。こう供述したとされる女は、おとなしく控えめな感じに見えたという。

 しかし、女は同様の手口で別のJR西の制服をだまし取っていたことも判明した。

 「私のJRの制服を、祖母が無断でクリーニングに出しました。明日のJRの総会で制服を着なければならないので、どうしても必要です」

 女は今年1月にも、和歌山市内のクリーニング店で店員に対してこう嘘を言い、店で保管していたJR西の制服の上着などをだまし取った。

 鉄道ファンの女性は「鉄子」と呼ばれるが、女について、捜査関係者は「単なる鉄道好き。鉄子と言うほど熱狂的なファンとは違う」と説明する。

 ■ファンの間でも話題に

 この事件は、鉄道ファンの間でも話題に上った。

 和歌山市の景勝地、和歌浦の海を見下ろす絶好のロケーションに、鉄道ファンらが集うカフェ&バーがある。

 「サァァ…」

 20人ほど入れば満員になる店内には壁に沿って鉄道模型が取り付けられ、車両の模型が軽快な音を立てて走っていく。さらに、寝台客車のベッドにのぼる際にかつて使われたハシゴ、通称「サボ」と呼ばれる車両に取り付ける行き先などを示す表示板といった貴重な鉄道グッズの数々が店内を彩る。

 鉄道ファン以外お断りなどの条件はなく、美しい海を一望できるうえ、ボリュームたっぷりの丼を中心にしたフードメニューも豊富なことなどから、平成21年のオープン以来、人気の店だ。

 事件について、店長の男性は「悲しいな…」と静かにつぶやいた上で、「私は曲がったことが嫌いです。ダメなことはダメなんです。しかし、なぜそこまでして現行のJR西日本の制服がほしかったのでしょうか…」と首をかしげた。 事件のニュースは、インターネット上で“拡散”。女に関する記事は、多くのサイトなどにコピーされ、鉄道ファンらの間で話題となった。

 店の常連客の一人は「インターネット上で事件のニュースを知りました。まさか和歌山で起きるなんて…」と驚きの表情。不快感を表す客もいたという。

 ■「聖域」汚された思い

 鉄道ファンと一言で表現しても、その世界は多彩だ。

 例えば「青春18きっぷ」を使って各駅停車で全国各地を回るといった、鉄道に乗ることそのものを楽しむ「乗り鉄」や、鉄道写真の撮影に全力を注ぎ、全国各地を飛び回る強者も数多く存在する「撮り鉄」。さらに、走行音を含む、列車の音などを録音する「録り鉄」など楽しみ方は多岐にわたる。その中の一つに、列車の部品やグッズを集める鉄道ファンも存在する。

 鉄道関係者によると、鉄道会社の制服は会社を去る際には返却しなければならないので、「通常は外に出ることはない」とされる。流出防止に鉄道各社が注意を払うのは、部外者が駅の事務室などに入ってこないようにするセキュリティー上の問題があるためという。

 大学時代に首都圏の私鉄でアルバイトをした経験を持つ鉄道ファンのさいたま市の男性会社員(28)は「鉄道会社が制服の流出に神経をとがらせるのは、警察官の制服が部外に出ると大変なことになるのと同じ理由です」と説明。同時に、男性会社員は「制服を着るとやはり身が引き締まるものです。制服を着て働く鉄道会社の社員たちが、仕事に対して抱く誇りは高い。それだけに、部外者が制服をだまし取ったことについては、自分たちの『聖域』を汚されたような気分になると思う」と話す。

 JR西関係者の一人は「制服をだまし取られたという話はあまり聞いたことがないし、ましてや今回のように社員を装って…というケースには驚いています」と絶句する。

 ■鉄道の魅力伝える存在

 事件が報道される中、「一部の人間の暴走で、健全なファンまでも同一視しないでほしい」と訴える声も上がる。あるJR西支社の女性社員は「きちんとマナーを守ってくれるファンは、鉄道の魅力を伝えてくれる大切な存在なんです」と強調する。

 かつて和歌山県の新宮市と那智勝浦町を結び、今はJR紀勢線の一部になった「新宮鉄道」。3月初旬、新宮市内で行われた全線開通100周年を祝うイベントは、鉄道ファンらの呼びかけで発足した実行委員会が企画。大正時代をイメージした衣装を着た市民ら約600人が参加して、記念碑を除幕したり、旧新宮鉄道時代の線路跡を歩く催しなどが行われた。鉄道ファンらの果たした功績は大きく、大勢の観光客らでにぎわった。

 女性社員は「純粋な鉄道ファンの方々は、地域を一緒に盛り上げてくれるなど貢献してもらっている。ごく一部の人の不法行為によって、他の鉄道ファンが悪いことをした人と同じような目で見られてしまうのはとても悲しく、迷惑な話です」と言い切った。 

 女の行為が鉄道ファンらに与えた影響は、あまりにも大きかったのではないだろうか。

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