1審の横浜地裁が示したのは、「受信契約は、一方が拒否していても、裁判所の判決が確定すれば成立する」という判断だった。今回、2審の東京高裁は「判決確定まで契約が成立しないのは不合理」とし、契約の相手方が拒んでいても「長くても2週間が経過すれば」契約が成立すると判断したと報じられている。
「契約」は通常、一方が拒否すれば成り立たないのが原則のはずだが……。今回の高裁判決を、どう理解すればいいのか。1審判決の際に解説コメントをもらった山内憲之弁護士に再び意見を聞いた。
●弁護士が抱く「疑問」とは?
「まず初めに言っておきますが、私はNHKの受信料の徴収制度には異存はないし、今後も受信料はきちんと払っていくつもりです。しかし、今回の判決には疑問を感じます」
このように切り出した山内弁護士だが、具体的にはどの点に疑問を抱いているのだろうか。
「契約というものは、お互いの意思の合致のみによって成立するというのが、近代法の大原則です。
放送法64条の規定は、テレビを設置したらNHKと『受信についての契約をしなければならない』と微妙な表現になっています。
これは、『契約が成立する』と書いてしまうと、何の意思表示もないままに契約が成立することになり、近代法の考え方に反してしまうからです」
山内弁護士はこのように放送法の規定について分析する。
●1審判決は法理論として筋が通っていた
「問題は、『契約をしなければならない』にもかかわらず、契約しないという人に、どうやって対処するかです。その点、1審判決は、《判決が確定すれば契約が成立する》という判断でした。
これは、判決をもって当事者の意思表示に代えることができるという、民法414条2項但書きに基づくものです。
放送法の微妙なところを民法で埋める考え方で、法論理としてはいちおう筋が通っています」
●2審判決はどの法律に根拠があるのかわからない
「ところが、2審の高裁判決は、裁判すらしなくてよい、《NHKが通知をして2週間たてば契約が成立する》と判断しました。理由は、裁判の確定まで受信料を払わなくて良いのだとしたら、きちんと払っている人との間に不公平が生じるからだ、というのです。
確かに不公平だという点は分かります。しかし、通知を送るだけで契約が成立するという論理的な根拠は不明です。
私には、結論の妥当性の確保のために、論理を犠牲にした判決のように思えます。最高裁の判断を聞きたいところです」
この裁判が今後どうなるか、続報はまだ聞こえてきていない。だが、もし上告されるとすれば、最高裁には誰もがうなずかざるをえない、説得力のある説明を期待したい。
(弁護士ドットコム トピックス)